洗浄、緑青、ブロンズ病など コインの価格を左右する要素(その2)

よく見ると、コインにはその価格を増減させる要素が見て取れます。それらを知り、正しい専門用語を使いこなすことは、コインの収集家にとって必要不可欠なことです。例えば、ブロンズ病はコレクションを台無しにする要因になりうるので、注意が必要です。写真:Shutterstock
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3. 使用形跡

 

3.1 かき傷

かき傷は、コインで最も見られる破損であり、注意を怠った場合簡単にできてしまいます。その大きさ及び位置によって価格を大幅に減少させる要因になり得ます。その際、モチーフの刻印にあるかき傷の方が、モチーフを囲むプレーンな地(刻印以外の表面の部分)のかき傷より価格に悪影響を及ぼします。

 

3.2 縁の破損

縁の破損は、コインがおそらく地面に落とされてしまった印です。しかし、場合によって縁の破損を写真で見て取ることができないため、コインの説明にその旨を記載することがなおさら重要です。

 

ザクセン選帝侯国 ½ターラー 1627年 ドレスデン 表面の地に、選帝侯の頭部のすぐ隣に「R」という文字が刻み付けられている キューンカー・オークションeLive 56(2019年)のロット番号819

3.3 落書き

落書きとは、コインへの意図的な刻み付きであり、古代のコインでも見られる現象です。場合によっては政治的なメッセージを有しているため、歴史的に興味深いものもあります。しかし、ほとんどの場合は悪ふざけからの損傷として認識され、価格を減少させます。

 

こちらの1788年に鋳造されたウィーンのドゥカートは、取っ手がついています。キューンカー・オークション eLive 56(2019年)のロット番号819

3.4 穴と鳩目

コインとメダルは以前、壁にかけられたり、服装につけられたり、あるいはネックレスとして使われたりしました。そのためにしばしば穴を開けられ、研磨され、そして鳩目や取っ手を付け加えられたことがあります。そのような処理を受けたコインの価格は、損傷がついているとされるため減少します。そのようなコインを元通りに戻すことを試みた場合でも、詰め込まれた穴や取っ手の後が残りますが、それらも損傷と見做されるため価格減少を逆行させることはほとんど不可能です。しかし、ルネサンス期のメダルなら、穴は価格を上昇させる可能性もあります。なぜなら、当時はメダルを壁にかけることが一般的だったので、穴はのちの再鋳造物ではなく本物である印になるからです。

 

4. 洗浄

すべての洗浄が価格を減少させると一般的に思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。一方、価格を上昇させることは決してありません。大まかな原則としては、コインに付着する汚物を取り除くことには問題がありませんが、コインに影響を及ぼし、緑青(5を参照)を取り除くすべての処理は、望ましくないとされており、市場価格を大幅に減少させます。そのために現代の収集家は基本的に、コインの洗浄に対して非常に慎重な姿を見せています。

 

4.1 強力な洗浄処理

19世紀及び20世紀当初は、現在ほど敏感ではなく、酸性洗浄剤など、侵襲的な洗浄方法が用いられていました。洗浄によってできた細いかき傷は、古いコインを真新しいものほど光り輝かせる試みの印です。そのようなコインは、「不適切な洗浄を受けたコイン」、または単に「洗浄コイン」と呼ばれています。洗浄処理を受けたコインの真贋を確かめることが不可能なので、価格は極端に減少します。

 

½ライヒスターラー ザルツブルク大司教区 1711年 こちらのコインの地は研磨されたことがわかります。表面の周囲文字と地の色合いの違いをご覧ください。キューンカー・オークション117(2006年)のロット番号6285

4.2 研磨

1970年代までは、コインのかき傷を研磨ペンシルを用いて取り除き、地を「美しくする」ことが一般的でした。この処理はコインに影響を及ぼし、緑青を取り除くため、価格は大幅に減少します。このようなコインがオークションカタログに掲載される際、研磨されたと書かれます。

 

4.3 鋳造後の切り抜き

コインの細部や文字が劣化している際、再び見取りやすくするために様々な道具を用いてその部分を切り抜く人がいます。そしてそのような処理を通してより良い保存グレードを装おうとする人さえいます。しかし、このような処理は贋造に近く、価格を極端に減少させます。

 

5. 環境などの外的要因

長きにわたり土中に埋まっていたコインは、土中にある様々な物質による化学反応が起こり、多種多様な現象が生じます。

 

カリグラ帝のこのセステルツにあるような美しい緑青は価格をかなり上昇させます。オークション・キューンカー262(2015年)のロット番号7927

5.1 緑青(パティナ)

銅貨の銅から成っている部分はしばしば表面を緑青と呼ばれる錆に覆われます。この緑青は土中の物質の合成によって色が変わり、均質な場合だとなおさら価格を上昇させます。その中でも特に魅力的な緑と青の染色が高価です。緑青は要素が多く様々ですが、いずれにせよコインの年数の証となります。また、コインの破壊を促す化学反応からの自然な防護被膜の役割を果たすためにも、取り除くべきではありません。ただし、緑青とは似ているところがありながら色調という全く別のものもありますので、注意が必要です。

 

色調が綺麗なディオクレティアヌスのアルゲンテウス(294年) キューンカー・オークション351(2021年)のロット番号501

5.2 色調

間違えがちですが、銀貨を覆う薄い膜はパティナではなく、色調と呼びます。良く知られていることですが、銀は空気を触れると酸化し、変色します。正確には、銀は空気中の硫化水素と反応し、硫化銀となります。しかし、コインの場合「酸化」ではなく、「色調」と言います。コインの保管場所によって色調は様々です。美しい色調は収集家の間で非常に好まれるため、価格を大幅に上昇させ得ます。均質的で暗いものが、良い色調だとされています。中でも特に人気なのは、古いオーク材キャビネットでの長期間の保管などによって生じる、虹色に輝く「虹パティナ」と呼ばれる色調です。

注意!美しい色調と緑青のコインが非常に人気であるため、現代では、それらの現象を人工的に化学的処理で生じさせる動きが見られます。古くから自然的に成長した膜と、現代的な化学的処理の違いを識別するには、豊富な経験が必要です。

 

共和政ローマ デナリウス 紀元前81年 北イタリア造幣局 裏面の暗い部分は角銀鉱です キューンカー・オークション262(2015年)のロット番号7585

5.3 角銀鉱

土中にある銀貨の銀は、他の物質と結合することがあります。その際、コインに塩化銀の外皮ができます。貨幣学では、この現象を角銀鉱と呼びます。この外皮を、コインに破損をもたらさずに取り除くことが非常に困難である一方、角銀鉱はコインに悪影響を及ぼさないため、取り除かないことが多いです。

 

こちらのエリスのドラクマ(紀元前244/210年頃)に刻印されているワシは、腐食によってかなり劣化しています。 キューンカー・オークション eLive 48(2018年)のロット番号84

5.4 腐食

特に酸性的な土地に埋まっているコインは、非常に腐食しやすいです。この腐食は、コインの表面にみるみる穴を作り、コインを劣化させます。肥料が多い土地だと腐食がなおさら強いです。

 

5.5 クラクリュール

クラクリュールとは、陶器や油絵でよく見られる細い蜘蛛の巣のようなひびの網を指します。コインの場合はそれほど多く生じる現象ではないのですが、北ギリシャのコインなどで時折見られます。

 

こちらの1804年のロシアの5コペイカに見える緑の部分は上記の緑青ではなく、有毒な酢酸銅(II)なのです。 オークション・キューンカー135(2008年)のロット番号1432

5.6 ブロンズ病

土中に生じうる最悪な化学反応は、いわゆるブロンズ病です。ブロンズ病は銅の度合いが高い銀貨と銅貨に生じる破壊的な腐食です。その際、コインを侵食する有害な酢酸銅が発生します。ブロンズ病にかかっているコインは、処理を受けない場合、結晶質の風解を通じてコレクションの他のコインを感染させることができます。一度かかったコインは専門的な処理を受けない限り破壊します。市場価格は極端に低下します。

注意!長時間接触した場合、これらの有毒な結晶風解は人体にも危険です!

 

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